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・ VOL-Netについて〜活動の記録〜
■実施日 2009年5月3日(日)午後2時〜4時半
■場所 東京体育館 第一会議室
■テーマ ちょっと気になる骨の話
〜知っておきたい乳がんと骨の関係〜
■講師 茶屋町ブレストクリニック院長 脇田 和幸 先生
■参加者数 77人
5月3日(日)に、茶屋町ブレストクリニック院長・脇田和幸先生をお迎えして、東京体育館会議室(千駄ヶ谷)にてテーマ勉強会「ちょっと気になる骨の話〜知っておきたい乳がんと骨の関係〜」を開催しました。
VOL-Netの勉強会として『乳がんと骨』をテーマに採り上げるのははじめてですが、5月の大型連休中にもかかわらず、メンバー22名、一般55名と多数のご参加を頂きました。参加者の8割が40〜50歳代の患者さんで、6割が術後治療中の方、2割弱が再発治療中の方でした。

講師の脇田先生は、10余年の淀川キリスト教病院勤務を経て、2007年8月に開業された乳腺外科医です。乳がんの患者さんが集うメーリングリストをはじめ、学会の発表等でも『骨にうるさい』ことで知られています。

導入は「骨の特徴」で、健康な骨では、骨を溶かして壊す破骨細胞と新たに骨を作る骨芽細胞の仕事量のバランスがとれていること、女性は卵巣機能が衰えはじめる更年期(=エストロゲン量の低下)から急速に骨塩量が低下することなどが話されました。続く「乳がんと骨粗鬆症」では、化学療法やホルモン療法によって骨粗鬆の一因である早期閉経が起こりうること、閉経後のアロマターゼ阻害(AI)剤によって骨の健康を保つエストロゲンが減少することなどが説明されました。そのため、乳がん患者のほとんどは、骨粗鬆症の高リスク群として、年1回の骨量測定が推奨されます。
骨粗鬆症に対しては、女性ホルモン補充療法(HRT)、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)、ビスフォスフォネート、ビタミンDが統計的に有意差を認める治療ですが、乳がん患者に禁忌のHRTを除くと、ノルバデックスやフェアストンなどのSERM、アレディアやゾメタなどのビスフォスフォネートに期待したいところです。

さて、いよいよ本題の「乳がん骨転移」のお話です。
乳がんの最初の再発・転移部位は、骨、肺、リンパ節、局所、肝臓の順で多く、骨転移は、背骨、骨盤など血流の豊富な大きな骨に加えて、乳がんでは胸骨や肋骨に多く見られるそうです。がんが骨に転移するには、がん細胞が血液中に入り、骨に定着する能力が必要ですが、基礎研究においてこの能力を持つがんのタイプが【わかりつつある】そうです。
骨転移の症状は、「痛み」「骨折」「高カルシウム血症」ですが、実は「痛み」が起こる理由は良くわかっていないとのこと。
骨転移は無症状のうちにゾメタなどの治療を行った方が、病的骨折や疼痛などの骨関連事象が起こる率が低いことが報告されています。そのため、脇田先生のクリニックでは、個々のリスクや希望を考慮の上、2〜3年に1度は骨シンチグラフィ検査を行っているそうです。
アレディアやゾメタといった強い作用をもつビスフォスフォネート剤は発売以来、世界中で290万人以上の患者(多発性骨髄腫や乳がん)に投与されているそうですが、2538例の顎病変(顎骨壊死など)が報告されているそうです。非常にまれな合併症とはいえ、ビスフォスフォネート剤の投与が予定される場合には、前もって抜歯等の歯科治療を済ませること、あるいは、すでにビスフォスフォネートの投与を受けている場合には、治療前後に一定の休薬期間を設ける必要性と可否について、主治医に相談する必要があります。
また、骨転移の治療としては、腫瘍に対する化学療法、内分泌療法、放射線、骨症状に対するビスフォスフォネート、鎮痛剤、放射線、整形外科的療法、ストロンチウム89、抗RANKL抗体(デノスマブ)があります。*ただし、デノスマブは、日本では未承認です。

後半は、あらかじめ参加者から募った質問ならびに当日の追加質問にお答えいただきました。
:骨転移の治療中。ビスフォスフォネートの治療はいつまで続くのか?
:基本は継続投与。骨代謝マーカーNTxの値が落ち着いたら、通常3〜4週に1度の投与を、2〜3か月に1度にしている医師もいる。
:自覚症状で骨転移か否か(加齢による腰痛など)を見分けることは可能か?
:難しい。強いて言えば「背の真ん中あたりがずっと痛い」のは注意を要す。
:ホルモン感受性のある人の方が骨転移が多いというのは本当か?
:あまり関係ない。ホルモン感受性のない人、あるいはHER2陽性の人は内臓転移が多い印象があり、それに対して、ホルモン感受性のある人の骨転移が目立つのかもしれない。
:ゾメタは骨転移の予防にも有効か?
:今年3月のSt. Gallenコンセンサス会議で「予防のために使うべき」と答えた参加者は、閉経後26%、閉経前38%。まだ専門家の間でも合意は得られていない。

さすが、「骨にうるさいワキタ」先生。骨量の低下を防ぐためには生活レベルでの対応も重要で、「骨の健康のために、適度に日に当たり、運動する」ことをしきりに強調されていました。
終始、ソフトな関西弁でニコニコと話され、勉強会終了後もその後の懇親会でも、参加者の相談に丁寧にお答えくださる様子が印象的でした。

※ちなみに(社)日本口腔外科学会がビスフォスフォネート系薬剤関連顎骨壊死に関
して以下のような情報を提供しています。
http://www.novartis.co.jp/product/zom/te/bisphosphonate.pdf

<講師の脇田先生から>

休みの中、絶好の行楽日和の天候にもかかわらず大勢の方に来場いただきましてありがとうございました。
骨粗鬆、骨転移、骨髄転移などについてのお話をさせていただきました。いろいろ質問も沢山で鋭い物も多く、スタッフの皆さんの準備に頭が下がる思いです。
骨のためにも、がん治療のためにも、最も言いたかったことは、「適度な運動やストレス(重力をかけること)がとても大切である」ということです。これから外に出るのに絶好の季節になります。それでは皆様どうぞご自愛ください。

<参加者の方々のアンケートから>

乳がんと骨の関係はまだまだなぞが多い。治療を重ねていくにつれ、骨量は下降の一途だし、骨転移の心配もつきまとう。今回ゾメタの予防的使用についても言及されたが、早いエビデンスの確立を望みたいと思います。(患者本人、術後3年6ヶ月)

大変分かりやすい講義でした。最新のエビデンスもうかがえてよかったです。質問時間も長くてよかったです。スタッフの皆さん、ご苦労様でした。ありがとうございます。(患者本人、術後3年)

解かりやすく説明していただき、とてもよかったです。また、今日参加していた皆様が乳がんについてとてもくわしく、患者さん自身調べているのだとわかりました。1つ1つの質問に答えてくださり勉強になりました。(看護学生)

== 講師ご紹介 ==
 脇田 和幸(わきたかずゆき)先生
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広島県尾道市生まれ
昭和60年 神戸大学医学部卒
神戸大学医学部附属病院第一外科、兵庫県立成人病センター外科、淀川キリスト教病院外科等を経て、淀川キリスト教病院外科部長
平成19年に茶屋町ブレストクリニックを設立
日本乳癌学会専門医・評議員、マンモグラフィ読影認定医(評価A)、日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会認定医、日本臨床腫瘍学会暫定指導医
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〜脇田先生からのメッセージ〜
“骨”を単なる棒と思っていませんか? いろいろな働きをしている立派な臓器です。骨と乳がんは無関係と思っていませんか? 女性ホルモンの影響を受けたり、転移の標的でもあり、いろいろ密接な関係があります。一度乳がんと骨の関係に付いて勉強してみましょう。

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